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東京地方裁判所 昭和32年(ヨ)4070号 決定

申請人 江川邑江

被申請人 東京出版販売株式会社

主文

被申請人は申請人に対し金五〇、〇〇〇円並びに昭和三四年三月以降本案判決確定まで毎月二〇日限り月額金七、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

申請費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

理由

一、当事者の求める裁判

申請人は「被申請人に対して昭和三二年七月一五日附をもつてなした退職を命ずる旨の意思表示の効力を停止する。被申請人は申請人に対し昭和三二年七月一六日以降本案判決確定にいたるまで一ケ月金九、〇〇〇円の割合による金員を毎月二〇日限り支払え」との裁判を求め、

被申請人は「本件申請を却下する」との裁判を求めた。

二、当事者間争ない事実

被申請人は書籍雑誌の取次販売を主たる目的とする株式会社であり、申請人は昭和二八年三月一一日以降被申請人に雇用された職員であつたところ、被申請人は昭和三二年七月一五日申請人に対し退職を命ずる旨の通告を行つたことは当事者間に争ない。

三、争点――当事者双方の主張

(一)  申請人は右命退職の通告は次の理由により無効であると主張する。

(1)  申請人は退職事由を規定した就業規則第四六条各号に該当しない。すなわち、就業規則第四六条は退職、同四九条は解雇の各事由を規定しているところ、本件通告は「命退職」の辞令であり、第四六条に基くものであるが、申請人は同条各号の事由に該当しない。

(2)  仮りに就業規則第四九条に基く解雇であるとしても、申請人は被申請人の主張する同条第五号に該当しない。

すなわち、同号「やむを得ない経営上の都合のあるとき」とは勤務成績不良などの従業員の帰責事由を含むと解すべきでなく、経営者のみの事情を言うものと解すべきであり、担当事務の廃止というが、これは人員整理の必要によるものではないから配置換すべきで、他に新規採用をしていることならびに申請人の経歴からみても配置転換は可能であるので解雇の理由とはならない。そのうえ、申請人には被申請人の主張するような勤務成績不良の事実もない。このように解雇の対象となり得ないものを排除するのは著るしく不当で解雇権の濫用である。

(3)  本件通告は不当労働行為である。

申請人はもと東京出版販売株式会社従業員組合(以下従組と略す)の組合員、役員として極めて活発に活動した。

被申請人は従組の活発な組合活動を嫌悪し、とくに昭和二九年四月二八日従組が分裂し、職制を中心とした東京出版販売株式会社新従業員組合(以下新従組と略す)が結成されて後は従組に対して差別待遇をなし、そのため従組は脱退者が続き、創立時の六〇〇名が三〇数名となり昭和三一年二月二〇日解散するに至つた。しかし被申請人はその後ももと従組員を差別扱している。本件通告も申請人が右解散にいたるまで従組員として活動したためになされたもので申請人の正当な組合活動に対する差別扱である。

(二)  被申請人は次のように本件通告は有効であると主張する。

申請人が就業規則第四六条各号の事由に該当しないことは認めるが、本件通告は就業規則第四九条に基く雇用契約解除の意思表示である。本件通告は、申請人の非協調的性格と行動ならびに勤務成績不良のため、担当事務の廃止に伴い他の職場より受入を拒否されたためなされたもので、これは就業規則第四九条第五号「やむを得ない経営上の都合があるとき」に該当する。

すなわち、申請人は非常に強い性格であり、昼食後の休憩にも社外に出かけ、また昭和三〇年七月一日祖母葬儀の折会葬者に挨拶もしないなど、同僚上司との協調性に欠けるうえ、次のような勤務成績不良の事実がある。

(イ)  入社後一年位してから勤務中無断離席が屡々あつた。

(ロ)  昭和二九年五月頃申請外井上照子と長時間立話して守衛大槻秋雄に注意された。

(ハ)  同年五月一三日残業指令を拒否して同僚を誘い合わせ帰宅した。

(ニ)  庶務課にたびたび出入し前田同課長に理由を問われて返事もせず立去つた。

(ホ)  同年七月頃就業時間中地下室で書類を見ていたので、前田庶務課長が傍に行つたところ、急いで書類をかくして立去つた。

(ヘ)  同年八月一一日、同月二四日に勤務時間中許可なく課内で文書をまいた。

(ト)  昭和三〇年四月一一日に三〇分以上も無断離席して清水節治と立話をし、守衛大槻と小林係長に注意されたが、「少し位離席して私用をしてもよいでしよう」と反抗した。

(チ)  同年七月中旬頃、申請外江川節雄らが小林係長に気をつけないと殺されるといつて同係長を脅迫したときこれに加わつた。

(リ)  私用電話が特別に多く、江戸川営業所では事務に支障があり注意されたが改めなかつた。

(ヌ)  昭和三二年一月四日多忙のため休暇を許可しなかつたのに拘らず、スキーに行くため欠勤した。

昭和三二年六月一〇日に申請人の従事していた販売部都内販売課雑誌統計事務をIBM室が吸収してIBM電気計算機によつて行うこととなり、申請人を含む四名が不要となつた。ところが前記のような勤務状況の申請人はいずれの職場でも受入れを拒絶され、配転先がないので経営の秩序維持上これを排除するほかなく、解雇の通告をしたものである。本件通告は以上のような理由にもとづくもので不当労働行為ではない。

四、本件通告の効力

そこで命退職通告の効力について判断する。

申請人はまず本件は就業規則第四六条による命退職の通告であり、申請人は第四六条に該当しないと主張する。

申請人に退職を命じた事由が就業規則第四六条の事由でないこと、ならびに本件通告の辞令が命退職の文言を用いていることは当事者間に争なく、かつ疎明によれば、就業規則は第四六条に退職、第四九条に解雇の文言を用いていることが認められる。しかしながら、被申請人は従前解雇の場合に取扱上命退職の辞令を用いた例のあつたこと、及び本件通告に際し課長より口頭で解雇の通告をしていることが認められ、また命退職の文言は雇用契約の終了を意味するものと解せられるので、この言葉が特に就業規則第四六条のみの適用を意図して用いられたとの事実を認むべき疎明のない本件においては就業規則において異る文言を用いている故をもつて就業規則第四六条のみの通告と解すべき理由はなく、他の規定による解雇の意思表示を含むものと認めるのに妨げなく、この点の申請人の主張は採用できない。

よつて更に双方の主張する実質的な理由について検討する。

被申請人の主張するところは、次に掲げるように、申請人は勤務成績が不良であり且つ上司の業務上の命令に服従しないこと、及び申請人の非協調的性格と行動等が職場の規律を弛緩させまた業務の能率を低下させたので、申請人の担当業務の廃止により申請人を他の職場に転属させようとしたが、いずれの部課においても部、課内の調和を乱すという理由で受入を拒絶された。このように有害無益な余剰労働力を擁し、これに賃金を支払うことは経営の目的に反するので解雇のやむなきに至つたのであつて就業規則第四九条第五号にいう「やむを得ない経営上の都合」に該当するというにある。

ところで就業規則におけるやむを得ない経営上の都合により解雇する旨の規定は事実の縮少廃止など経営者側のみの事情による解雇の場合に限らず労働者側の非難さるべき行動により職場の規律が保たれず作業能率が低下し事業の運営に支障を生ずるとの理由により解雇されてもやむを得ないと認められる場合をも包含するものと解するのが相当であるので被申請人の主張する申請人の帰責事由が解雇の原因となつたかどうかの点を判断する。

(一)  勤務成績が不良であるとの点について疎明によれば次の事実が認められる。

申請人は昭和二八年三月入社以後昭和三〇年一月まで商品第一課店売記帳係に配属され、諸伝票の記帳、現金、仕入金額の計算及び得意先との接渉に当り、次で昭和三〇年一月以降昭和三一年一月まで販売部雑誌調整課統計係に配属されてブロック別の集計用紙に自己に割当の集計を記入する事務を担当し、昭和三一年一月以降同年一〇月まで江戸川営業所商品課雑誌返品係において返品伝票の整理の外に課員のため昼、夜食の注文、理髪券、定期券の購入、作業衣の取替、お茶出しなどの雑務に従事し、最後に同年一〇月から解雇される昭和三二年七月まで都内販売課雑誌販売係に配属され統計事務と雑務に従事したものであるところ、

(イ)  入社後一年位してから勤務中離席することが多くその内には私用によるものもあると認められる。しかしその離席は江戸川営業所に於ては離席を必要とする事務を担当していたわけであるから申請人が私用のためにのみ離席した回数と時間は不明という外はなく、その余の部、課における勤務中の離席についても私用のためのみの離席が他の同僚と比べて特に甚しいと認めるに足りない。もつとも会社側の疎明中には申請人の離席が甚しく何回となくその注意をしたりまたこれにより業務に支障を生じた旨の表現があるけれどもにわかに信を措き難いところであつて、別の疎明によれば申請人の事務処理は機敏であつて他の同僚に遅れをとつたり、迷惑をかけたりして事務に支障をきたし上司より注意されたことのないことが認められる。

なお後述のとおり昭和二九年四月申請人の属した第一組合が分裂し第二組合が結成されるという組合の内紛があり第一組合において申請人は青年婦人部幹事として活躍していて、組合用務のための離席もあつたものと推察されるので離席の情状として斟酌さるべきであり被申請人が単に離席の多いことのみに着眼し離席の目的、用務を考慮しないで勤務成績を評価するのは用意に欠けるものと云わざるを得ない。

右の程度でも勤務中私用による離席はもとより非難は免れないところであるが企業より排除されてもやむを得ないというに足りないので、これが解雇の真の理由であるとは納得できない。

(ロ)  昭和二九年五月頃井上照子と立話をしていたことは認められるけれども、長時間に亘つたことについてはこれを認むべき疎明はない。

(ハ)  同年同月一三日残業指令を拒否して職場を去つたこと及び当時会社と組合には三時間半の時間外残業協定の存したことが認められる。しかし別の疎明によれば当時組合は分裂し組合大会が度々開催されていたときであり、当日も申請人は大会に出席のため職場離脱したものであつて他にも同様の行動をとつたものの多数あることが認められるので申請人のみ非難さるべきではない。なお申請人が同僚を誘つて残業を拒否させたとの点を認むべき疎明はない。

(ニ)  申請人が昭和二九年五月頃勤務時間中他の職場に出入したため前田庶務課長から注意されたことは認められるが右は申請人が第一組合の青年婦人部副部長井上照子と組合分裂直後の組合用務の打ち合せのために井上の職場に出入していたものであつてその頃第二組合は社内で会合、宣伝、報告等をしていたのに対し、第一組合はそのことが自由にできなかつたため、蔭の運動が上司から好ましくないものと見られたと認むべきであり、かつこの離席は分裂直後の一時的現象と認められるのでこの離席が解雇を決定したとは認め難い。

(ホ)  同年七月頃、勤務時間中申請人が地下室廊下で印刷物を見ているのを前田庶務課長に見付けられたことが認められるがこのこと自体が特に解雇の直接の理由として取上げられたものとは考えられない。

(ヘ)  同年八月頃、申請人が勤務時間中組合のニユーズ、ビラ等を配布したことは認められてもそのために解雇を決定づける程職場秩序が乱され、申請人の勤務成続が不良であるというに足りない。

(ト)  昭和三〇年四月一一日頃勤務中離席して組合員清水節治と立話をしているところを守衛の大槻に見付けられ、このことを大槻の連絡によつて知つた小林係長から注意されたこと及びその際申請人は小林係長に対し「仕事はしているから少し位私用を足してもよいではありませんか」といつたことが認められる。しかし数十分も清水と立話をしたとの点は信用できない。

右の申請人の行動は不適当であること勿論であるが解雇に価する程職場の秩序を乱し又は上司に対する反抗と評価するに足りないところである。そしてこの時期と被申請人の主張から考えても右が解雇の直接原因になつたわけではない。

(チ)  同年七月中旬頃就業時間後雑誌調整課統計係長小林義則が部下から事務につき話をしたいとの申入を受け、職場従業員と面会した際同係長が勤務を厳正にするよう要求したところ申請人はこれに対し抗議的な意見を述べたことが認められるけれども、申請人がその際江川節雄と共に同係長を脅迫したとの事実を認むべき疎明はない。而してその際小林係長が部下の勤務態度について具体的に如何なる点に不当があり、これに対する申請人らの意図が如何に表明されたか不明であるので、右の限度では勤務に関する職場の従業員の一般的な労働条件が論議されたものと推察する外はない。してみればその論議は労働条件につき双方対等の立場においてなされたものと見るべきであるので、申請人らの措辞が多少上司に対する礼を失し抗議的に亘つても非難するに当らないというべきである。

(リ)  申請人が他の同僚に比べ就業時間中私用電話を利用する回数と時間の多かつたこと、そしてその回数は一日一回位、多くて三、四回でありまた大部分他からの電話であることが認められる。この点について一日一〇回位であるとの疎明は信用し難い。ところで就業時間中私用電話に出ることは自己の業務に差し支えるし、隣席の同僚を煩すので必要やむを得ない限度に止むべきことは勿論であり、申請人の私用電話利用が右の限度を越えるので小林統計係長からその注意を受けたことが認められる。

しかし江戸川営業所においては前記のような申請人の担当務の都合上部内の電話連絡が多くその際私用に亙る会話が交されてもそれが儀礼的に短時間のものである限りやむを得ないと言うべきであり、申請人の事務に支障のない限り殊更に非難するのは当らないというべきである。そして私用電話のため申請人の事務処理に遅滞支障が生じたとは認められない。

この点につき事務に支障を生じたとの点に関する被申請人の疎明は採用し難い。

してみれば申請人の私用電話の利用の点に多少不当の点があつても社会常識に照しこれが解雇を妥当ならしめるともまた解雇を決定づけるとは容易に納得できないところである。

(ヌ)  申請人は昭和三二年一月四日スキーに行くため休暇の申出をしたところ係長から年始は事務多忙であるのと来客も多いので後日に休暇をとるよう伝えられた。ところが当日申請人は腹痛のため欠勤すると連絡して、スキーに行き欠勤したことが認められる。虚偽の事実を告げて休むことは情状により無届欠勤より重いと見られてもやむを得ないであろう。

しかしその頃会社は右事実を知りながら別段制裁の措置に出なかつたことに鑑みこれが解雇を決定づけたと見ることはでないところである。

(二)  上司の業務上の命令に服従しないとの点について

前記認定の事実を上司の命令に不服従の観点から考察すると

(イ)  上司の命令に拘らず、勤務時間中私用のための離席の跡を断たなかつたこと

(ロ)  残業命令を拒否して職場を去つたこと

(ハ)  上司の命令に拘らず私用電話を利用したこと

(ニ)  上司の命令に反し虚偽の事実を告げて休んだこと

の諸点において非難を免れないといわなければならない。

(三)  非協調的性格と行動について

非協調的性格とこれに基く行動の故に職場から排除されてもやむを得ないとされる所以はこれにより職場の規律に悪影響を与え、業務の能率を低下させ又はさせる危険があると認めるについて合理的根拠があるためである。

而して(二)に認定のように申請人が上司の命令に従わないことは一応非協調的性格の徴表というべきである。

ところで被申請人はこの点につき昼食時外出して同僚と同席しないと主張するがこれにより特に職場従業員に不快の念を与え職場の秩序を乱したことの認められない以上職場の規律に影響あるものということはできないし、また祖母の葬儀に際し職場の会葬者に挨拶しなかつたというのは常識を疑われるに止り、かつまた申請人の若年であること、会葬時の混雑などを考えると非協調的性格というに足りない。

右(二)、(三)の点は(一)に述べたところを別の観点から評価したに止まり、解雇を決定づけるに足りない。

(四)  担当業務の廃止について

昭和三二年六月一〇日都内販売課統計事務はIBM電気計算機によつて行われることになり申請人の従事した事務はIBM室に吸収され、申請人ら統計事務員四名は剰員となり他の三名は他の職場に配転させられたことが認められる。

ところで被申請人の主張するところは申請人が配転先のない余剰員ではなく配転の職場はあるけれども(疎明によれば被申請人会社従業員約一、四〇〇名のうち女子は約二五〇名を算え新規採用をもなしていることが認められる)前記のように勤務態度不良の故に配置さるべき職場から受入れを拒否されたので配転に支障を生じこのような従業員を擁することは企業の運営に障害となるのでやむを得ない経営上の都合により排除したというにある。

よつて進んでその主張の当否を判断する。

(五)  申請人の組合活動について

疎明によれば被申請人会社には昭和二五年三月より東京出版販売株式会社従業員組合(従組)が存在していたところ、昭和二九年四月二八日右組合は分裂し、職制を中心として、昭和二九年五月七日右組合のほかに東京出版販売株式会社新従業員組合(新従組)が結成され、以後組合員の獲得を争つたが次第に新従組が多数となり、従組は三〇数名を残すのみとなつて昭和三一年二月二〇日に至り解散したこと。

申請人は昭和二八年六月に従組に加入し解散に至るまで従組に残留し、その間職場委員、青年婦人部幹事、同部長、千代田区青年婦人懇談会幹事などの職にあつたほか、組合機関紙、ビラ、ニュースの配布等に積極的に参加したことが認められる。

また疎明によれば右の従組分裂より従組解散に至るまで、被申請人は新従組に好意を寄せ、従組の活動を嫌悪し従組への会場貸与機関紙類の扱い、従組員のボーナスなどにつき不利益に扱つたことがうかがえる。右認定に反する疎明は信じがたい。

(なお被申請人が申請人の勤務不良の例としてあげるところの半は前記のとおり解雇の二年前に遡る組合分裂当時の申請人の組合活動に関係しているところである。)

以上によれば会社は申請人を組合活動の故に好ましくないものと見ていたものと推認せざるを得ない。

(六)  解雇時の状況

疎明によれば昭和三二年七月五日申請人は鈴木人事課長に呼ばれ「引き取る所がないから暫く休んでほしい。仕事はキチンとしていたであろうが現実的にもらい手がないからしかたがない」といわれて待命となつたので、これを清水課長に伝えたところ同課長は、「待命といわれたのではどうにもならぬ、四年前の君は仕事をよくし、よい子だつた、そのあと色色な面で変つた。そこが原因なのだ」と暗に組合活動が理由であることをほのめかし、次で同月一〇日鈴木人事課長より退職を勧告されたのでそのことを柏熊係長に伝えたところ同係長は「この退職勧告は仕事のことが理由ではない。別のことが理由なのだからこの際よく考えた方がよいだろう」と組合活動理由をほのめかした。更に同月一三日仲労務課長より「君は無断欠勤とか、喧嘩とか事故とか就業規則に該当する行為はないが会社に反抗しみんなを扇動して飛び回つた。会社は企業を守る上からも君を絶対に会社におきたくないのだ」と話されたことが認められる。

次に昭和三二年六月七日附江戸川営業所長の人事部長宛の申請人の転属に関する回答書には、申請人が同営業所から都内販売課に転出する際申請人が職員間の融和を欠き業務面での支障をきたすおそれがあるので転出の取計を願つた程であるので受入兼ねるというのであるが、更に疎明によれば申請人が同営業所に勤務中前記のような庶務的事務を取り扱い職場従業員と別段の不和なく円満に業務を遂行していたことが認められるので、右回答書に融和を欠くために業務面での支障をきたすおそれがあるというのは事実に相違するものと認むべきであり、従つて右受入拒否は多分に作意的な嫌を否定できないこと、及び同日付雑誌販売課長、雑誌調整課長、週刊誌課長、書籍販売課長の各人事課長宛申請人の受入拒否についてと題する書面には、申請人が雑誌調整課統計係当時同僚との調和も悪く全体を不快にする行動が多くあつたことを第一の理由として挙げているが別の疎明によれば、同僚との調和が悪かつた事は認められないのでこの点に関する限り事実と相違するものと認むべきであり且つ統計係における申請人の勤務状況は週刊誌課長、書籍販売課長の直接関知しないものと考えられているのに、その書面に連署していることは過分に形式を整える傾向を否定し得ない。

(七)  判断

申請人は事務処理につき同僚と比べて劣るところが認められないのであるから他の同僚が他の職場に配転されたように申請人も配転される筈であると考えられるのに、職場から排除される程に重大視するに足りない職場離脱と命令不服従及び非協調的性格を理由として配転不能とするところに納得し難い点がある上に配転拒否の形式を整えるための作意的傾向がうかがえるし、解雇時における職制の申請人に対する意見の開陳及び会社が申請人の組合活動を嫌悪したこと等、以上認定の事実を総合して考えると会社が申請人を職場から排除しようと決意したのは、申請人の勤務態度ではなくして、組合活動を嫌悪しその言動の職場に及ぼす影響を慮り、これが職場秩序を乱すものと考えたのが真の理由と認めるのが相当である。従つて命退職通告は労働組合法第七条第一項に該当する不当労働行為であつて労働関係の公序に反し無効であるといわねばならない。なお被申請人は本件解雇は民法第六二七条、第六二八条の解雇の意思表示を含む旨主張する。しかし仮にそうだとしてもその意思表示が前記のように不当労働行為であるとする結論には変りがないわけであるからこの主張も理由がない。

五、結論

以上のとおり本件命退職通告は無効と判断すべきであるから、被申請人と申請人との間にはなお雇用契約が存続しているというべく、また被申請人は昭和三二年七月一六日以降申請人を職場より排除し労務の提供を受けないのであるから申請人は被申請人に対し同日以降の賃金請求権を有する。疎明によれば申請人の賃金は毎月二〇日支払、月額九、〇〇〇円であることが認められる。

ところで労働者である申請人によつて雇用契約が存続しているのに拘らず被解雇者として扱われることは甚だしい損害であることは明かであり、疎明によれば申請人はその結果経済的にも苦痛を蒙つていることが認められる。よつて申請人が本件通告後に予告手当並退職金相当額を仮りに受領していること、その他の事情を考慮し主文掲記の範囲において仮処分の必要あるものと認め、申請費用について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 西川美数 大塚正夫 花田政道)

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